秋の祭り

 10月は、神無月という。全国の神々が出雲の国に集まり、地元に神様がいなくなるから神の無い月なのだという。しかし水無月の6月は、水の季節すなわち梅雨時期である。従って、神無月は神の無い月でなくて神の月であり、収穫を感謝する神祭りの月だと言う。確かに十月の頃は、春の種蒔きから夏の疫病防止・虫封じを経て、待ち望んだ作物収穫の季節である。

北国の風流の代表が「ねぶた」なら、九州は「くんち」で99日の重陽の節句にある。「長崎くんち」は、諏訪神社の祭礼で107日から9日にかけて行われ、踊町がそれぞれ7年に1度の出し物を披露する。異国情緒を偲ばせた、ダイナミックな出し物が目を瞠る。平成22年は、テレビ竜馬伝にちなんで蛇踊りが奉納され、平成23年は太鼓山(コッコデショ)奉納された。

熊本県八代市の「妙見祭」は、絢爛豪華な笠鉾や奴踊りが花を添え、チャルメラの響きと銅鑼の音で獅子が舞い、馬が走り亀蛇が暴れる。約1,600人が参加する1㎞の神幸行列は、時代絵巻そのものである。獅子や笠鉾・亀蛇は「長崎くんち」を想像させる。確かに、奉納する獅子舞は八代城下の豪商が、長崎くんちの羅漢獅子舞に心を打たれ、長崎で芸能を習得して取り入れたと伝えられている。昨年、国指定無形文化財に指定された。佐賀県一帯に広がる「浮立」も秋の風物誌である。秋の夜長は、各地で神楽が繰り広げられ、全国さまざまな場所で神事や秋祭りが行われる。神様に収穫を感謝し、神様に捧げる芸能の鐘や太鼓の音が遠くまで聞こえて来る。

対馬へ。命婦の舞と神の島

 対馬には、国選択無形民俗文化財に指定された「命婦の舞」という巫女舞があり、起源は中世以前にさかのぼるという。その芸能は、白衣白足袋、緋袴に千早を着た命婦(巫女)が、囃子太鼓を打ちながら神楽祝詩を唱えた後、右手に神楽鈴を持って古風な神楽歌をうたいながら四方舞を舞うものである。これは、神楽の原初的姿の1つである往時の巫女舞を考える上で貴重な伝承とされている。九州民俗学会のお誘いで、平成22年9月11日から14日にかけて対馬に渡った。飛行機から見る対馬の島々は、起伏に富んだ地形で小さな島々が無数に点在していた。和多都美神社にお参りして、烏帽子山からも美しい島々の風景を堪能した。翌朝、木坂海神神社に下見に出かけた。神社の幟がちぎれるような激しい風雨で、木坂山の木々は音を立てて激しく揺れていた。木坂山(伊豆山)は、千古斧を入れない天然記念物の原生林で野鳥の森となっている。山全体がが御神域で伊豆山とも呼ばれている。伊豆とは、「稜威」「厳」であり、不浄を許さない聖地を意味するようだ。幸運なことに、前夜祭で「命婦の舞」が観られるとのことである。夕方には、風も少し静まり前夜祭が始まった。人も少なく、森の中で聞く太鼓のお音と命婦の舞は、古式豊かな聖地での舞にふさわしいものであった。次の日の朝は、日差しが差し込む中で本祭が始まった。命婦の舞は三人で、昨日舞った巫女(島居千鶴さん)のお嬢様も参加された。お神輿が三体出てお下りが始まり、御旅所では浜殿祭が執り行われた。お神輿は、来た道を引き返し、本殿に到着して家内安全や豊漁・五穀豊穣を祈願する古式大祭(旧8月5日)は終了した。対馬は、釜山まで49.5km。博多港まで138kmあり、九州より遥かに韓国の方が近い。対馬と朝鮮半島のみ生息するムジナノカミソリやツシマギボウシの固有種の花が咲いていた。

白鬚神社の田楽(佐賀市川久保)

白鬚神社の田楽は、「幼児田楽」といわれ、平安時代の芸能の形や舞の所作を色濃く残し、全国的にも他に例を見ない民俗芸能として、国の重要無形民俗文化財に指定されている。白鬚神社は、伝えによれば六世紀頃近江国(滋賀県)より白鬚明神(猿田彦命)を勧請された社である。その人々は、近江からの移住者で川久保の地に十九の家を構えた。人々は宮座を組み、白鬚神社の祭り(丸祭り)を行った。この時奉納されたのがこの田楽の起こりとされている。田楽系の芸能は、現在、隠岐島の美田八幡宮と浦郷神社に残る田楽踊りや、島根県平田市多久神社の「ササラ神事」などがあり、それは近江の伝来色を残している。白鬚神社の田楽は、笛と太鼓に合わせて、「ササラツキ」と呼ばれる化粧を施した女装の少年4人が、花笠を頭に乗せて「ササラ」という編み木を緩やかに打ち鳴らす動作が主体となっている。舞は、玉垣の中で約1時間30分繰り広げられ、途中で幼児が演じる「ハナカタメ」と「スッテンテン」が登場する。これが、特色の一つでもあり、またその姿が何とも可愛い。初日は、白鬚神社での奉納が終わると、近くの勝宿神社に移動して約30分間の舞が奉納される。勝宿神社までの道行は、「ササラツキ」の花笠を今度は父親役が頭に乗せて移動する。子供たちの脇には常に父親たちがいる。「ハナカタメ」と「スッテンテン」を肩車にしたり、道行の移動時に花笠を頭に乗せて運んだり、父親が陰ながら存在感を見せる。祭りは、毎年1018日と19日の2日間開催される。2009年に撮影した「ハナカタメ」の化粧姿で、日本の祭りフォトコンテストの特選を受賞した。以来、その子のご家族との御縁が出来て、これまで3回訪問した。田楽に参加した子供たちの成長が楽しみである。