歳神様 甑島の「トシドン」


 大晦日の夜、薩摩川内市の甑島には、恐ろしげな神々が、天から首のない首切れ馬にまたがって現れると言う。神の名は、「トシドン」。たとえそれまで天候が荒れていても、神の来訪が始まる頃は収まるのだ。と島の人々は言う。平成21年に訪れた時、余裕を見て前々日に渡った。それが的中した。前日から海は大荒れで船は欠航して、報道関係者の多くは当日の夜の便になった。「トシドン」は、8歳までの児童を対象にした、子供の健やかな成長を願う行事とされる。午後7時30分頃、唸り声をあげてやって来た6人の顔は、緑色の顔に白い目や口が真っ赤に縁取りされている。鼻は細く長く、蓑で体を覆う異様な姿で、家の縁側から上がって来た。子供に向かって、大きな声で「宿題は、ちゃんとしょっとかー」、「うそば言うなよー、山の上から見とっだっどー」と詰め寄る。泣いて親の後ろ側に回る子供もいる。得意な歌や踊りも披露させる。最後に、子供の良いところを誉めてやり、四つんばいにさせて、直径20センチもあろうかという年餅を背中に背負わせる。つまり「トシドン」は正月の神様で、年餅はお年玉である。近年、過疎化や少子化で、子供も訪問する家庭も減少して、後継者も減っている。下甑島には六つの保存会があるが、手不足の為、顔は天狗の面を代用しているところもある。「トシドン」は、子供たちの健やかな成長や明るい未来を祈る来訪神で、日本人の民間信仰や神観念を伝える行事として、平成21年にユネスコの無形文化遺産の代表リストに登録された。